私はすぐに赤ひげ先生に手術の予約を要れ、翌日には手術をしてもらった。


朝、出勤前に小梅ちゃんを病院へ連れて行き、その日の夜、仕事が終わってから迎えに行くと、
赤ひげ先生から、

「よっつ入っていたぞ。」


と聞かされた。


 ・・・ なんと小梅ちゃんは妊娠してたのだ。



「見てみるか?」

赤ひげ先生がそう言うので、見せてもらうことにした。


先生は小梅ちゃんから取り出した子宮を見せてくれた。
子宮は血を洗い流してあったのか、血液はついてなくて、
灰色の薄いチューブのような中に、小芋ほどの大きさの丸い塊が4つ連なっていた。
猫の子宮を見るのは初めてだった。


私は不思議に恐さも気持ち悪さもなく、そしてかわいそうだという気持ちさえ微塵も起きなかった。
それよりも産まれなくてよかったという安堵の気持ちでいっぱいだったのだ。




その日は小梅ちゃんをわが家へ連れて帰り、ゲージに入ってもらい、
次の日からはゲージから出して、しばらく家で様子をみることにした。

うちの子達が小梅ちゃんに対して威嚇するので、小梅ちゃんはたいそう居心地が悪そうだった。
しかし、タミエさんが言うような、外に出たがったり鳴いたりすることは全くなかった。


そこで私は早々にタミエさんに連絡を取り、一旦タミエさん宅に戻すことにしてみた。

小梅ちゃん わが家での小梅ちゃん




タミエさん宅に連れて帰ると、小梅ちゃんはまるでよその家に来たかのように、
キャリーから出るとすぐに押入れの奥に隠れてしまった。

小梅ちゃんは異常に車が嫌いな猫で、
車に乗せると5分もしないうちに車酔いし、「おえっ」と吐いてしまう子だった。
そこで小梅ちゃんにはまだ手術跡の抜糸が残っていたが、
小梅ちゃんを再び病院に連れて行くは無理だと判断し、(それに抜糸の際に余分にお金がかかっても困るので)私はタミエさん夫婦に抜糸の仕方を教え、あとの処置をやってもらうようお願いした。




タミエさんに小梅ちゃんが妊娠していたことを話すと、タミエさん夫婦さほど驚きはしなかった。


それどころかタミエさんのところにもう一匹、いかにも妊娠しているかのような、お腹が垂れ下がっている猫を見つけてしまったのだ。。。


「・・・もしやこの子も妊娠していないですか?」


そう聞くとタミエさんは、
「はい、そうだと思います」と答えた。



「どうするんですか、もうすぐにでも産まれそうなお腹じゃないですか?!」


「・・・今はもう余分なお金がないので、うちでなんとかします」


「・・・・・・・・・」


タミエさんの家にいる子猫達は全員目がくしゃくしゃしていた。
猫風邪にやられてどんどん伝染っていってしまったのか、、、
それよりも子猫達を医者に連れて行くお金もないのかもしれない。



私はタミエさんにこんな話しをした。



昔の人は皆猫を飼っても避妊手術などしませんでした

その代わり、産まれたばかりのまだ目も開かない子を川に流して処分しました

川に流すのは、万が一助かってしまったことを考えるといい方法とは思えませんが、

昔のやり方も方法のひとつですよ
 と。




タミエさんはうなずいて「ありがとうございます、主人と考えます」と言った。


    






それからしばらくしてもらったタミエさんのメールには、
小梅ちゃんの近況が書かれていた。


今まで子猫にまったく興味がなく、近づくことも嫌っていた小梅ちゃんが、
なぜか急に面倒見がよくなって、子猫の世話をするようになった、と。

「グーグーだって猫である」に登場するタマをいうメス猫も、
避妊手術後、子猫の世話をするという同じ状況になっている。
子宮を取ったことで一時的に出産した気分にでもなるのだろうか。


そして小梅ちゃんは以前ほど外に出たがらなくなった、
里親さんを探さなくてもよくなりそうだ、と。



小梅ちゃんははなおのように全身真っ黒で、金色の目のきれいな猫だった。

小梅ちゃんみたいにきれいな黒猫はそういません
大事にしてあげてください


私はそう返信した。


    


ところで今にも産まれそうなお腹をしていた例の猫はどうなっただろうか。


その猫はそれからすぐに子供を産んだようだった。
やはりあのお腹は出産間近のお腹だったのだ。
そしてその子供はタミエさんのご主人が、バケツの水に沈めて処分した、と話してくれた。




私があんなアドバイスをしなければ、タミエさん夫婦は猫の子を育てたのかもしれない。
しかし・・・猫の命も大事だが、世話をする人間の生活の方が大事だ。
それが逆転してしまうことが多頭飼い崩壊ということになる。

私は多頭飼い崩壊したおうちを何度か見ているが、

どのうちもほとんどゴミ屋敷のようで、
要はそこに住む人間のずさんな飼育の果てが多頭飼い崩壊につながっている。


しかし少なくともタミエさんの家は違っていた。


私が初めてタミエさん宅を訪れた時、タミエさんは笑いながら、
「猫のために働いているようなものです」と言っていたが、

タミエさんの家にあがらせてもらって、そこの猫達が本当に大事にされているのがわかった。




そのタミエさん夫婦にそんな決断をさせたことに胸が痛んだ。


でもほっとした自分がいることも確かだった。。。



今タミエさん達はどうしてるだろう。
もうあのアパートの下の住人と争ってはいないだろうか。

いつかタミエさん夫婦が誰かに咎められることなどなく、
猫達とのんびり幸せに暮らせるようになって欲しいと、
私は今も願っている。





2009/10/12
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コメント

  1. ringo | -

    ケムさん、こんにちは。今回の記事は特にすごく興味深かったです。

    私、フォスターのボランティアしていた時に産まれて間もなく死んでしまった子猫達の事を今でも時々思い出すんです。ああしていたら助かったんじゃないかって後悔する事もあります。
    だから、バケツの水に沈めて処分した事、私にとってショックでした。でも、猫の需要と供給のバランスが大きく乱れている日本の状況で、これ以上望まれない命を増やすわけにいかないですもんね。これもひとつの方法なのですね。
    改めて、ケムさんの強さを知りました。猫が好き、かわいいと思うだけじゃなく、猫の幸せと人間の幸せのバランスをとる為に冷静に色んな事を判断できるんだなって。尊敬しました。
    ケムさんの活動が日本中に広がりますように。

    ( 08:11 )

  2. けむ | xzfXrOoo

    Re: タイトルなし

    りんごちゃん、こんにちは。
    私はもう何匹もの里親探しで苦労しているので、こんな風にドライな割り切り方をするのでしょうね。
    私達ボランティアさんの中には、妊娠している母猫(野良)を保護した場合、そのまま産ませてしまう人もいます。
    考え方は色々です。
    もし動物愛護団体の人がこの日記を読んだら、抗議されるかもしれません。
    でも昔の人が避妊手術をする代わりに、そうやって個体数を減らしてきたのは事実ですし、
    昔どころか現在も、お年寄りはそうしている人もいると聞いています。
    私も最初は驚きましたが、昔の人がそうしてきたのは無理はない、育ってしまってから遺棄するよりは遥かにマシだと理解しています。

    私は小梅ちゃんから出した塊を見たせいで、産まれたモノとの差はないのだと強引にイメージしたのかもしれません。
    そしてキミエさん夫婦なら、私よりも愛情を持ってふさわしい決断ができると思い託したのです。
    キミエさん達にとってはわが子も同然なのですから。

    りんごちゃん、難しい記事だったのに正直なコメントありがとう。


    ( 09:21 [Edit] )

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